BUSINESS | BUSINESS CO-CREATION

CASE STUDY

アサヒクオリティアンドイノベーションズ株式会社 様

りんごの搾り残さを活用。
技術協力型パートナーシップで実現した
循環型事業のコラボレーション。

アサヒクオリティアンドイノベーションズ様が、ファーメンステーションと協業し、アサヒグループ事業で製造販売するりんごのお酒「シードル」の醸造過程で出るりんごの搾り残さからエタノールへとアップサイクルし、JR東日本様も含めた三社で「お米とりんごの除菌ウェットティッシュ」を開発・発売するに至った経緯や事業化に当たっての取り組みをお聞きしました。

カテゴリー
業種食料品
未利用資源りんご
商品ウェットティッシュ
対談ご参加者
アサヒクオリティアンドイノベーションズ株式会社
経営企画部 新規事業開発室
プロジェクトマネジャー 杉本 利和様
株式会社ファーメンステーション
代表取締役 酒井 里奈
※聞き手 ファーメンステーション担当

INTERVIEW

同じアルコールでも
全く違う目の付け所に
衝撃を受けた出会い
早速ですが、杉本様がアサヒ内でご担当されている事業と、今回の取り組みに至るまでの背景をお話し頂けますか。
杉本様
私は二つの担当を兼務しており、主務はニッカウヰスキー社の技術開発センターでウイスキーや焼酎など蒸留酒の技術開発をしています。兼務は、アサヒグループの研究開発部門であるアサヒクオリティアンドイノベーションズで新規事業開発を担当していて、グループ全体に関わるような研究や、グループの次の足場となるような事業開発をしています。
アサヒグループとの協業でシナジーを生み出すことができそうな、面白い技術を持った社外の方を探していた時に、ファーメンステーションさんとお会いしました。
まず第一弾は、御社の「シードル」を造る工程から出るりんごの搾り残さからエタノールを作り、それを用いたウェットティッシュの商品化でしたが、どのようなきっかけでこの取り組みが始まりましたか?
杉本様
アサヒグループの中では、ビールやコーヒー製造によって発生する製造副産物などの、グループ内の未利用資源をどのように他の価値あるものに変えていくかは非常に大きな命題でした。アサヒクオリティアンドイノベーションズが組織として立ち上がろうとしていた2019年はじめ頃、様々な検討を重ねながら、参考となる取り組みをしている方を探していました。
パートナーとしては大企業やテック系ベンチャー企業などもリサーチされていたのですか?
杉本様
はい、リサーチしていました。ファーメンステーションさんとお会いする前ですが、例えば、コーヒー製造工程で発生する副産物の新しい可能性を研究している大学発ベンチャーとは、事業化に向けて実際に動いています。あとは海外にあるスタートアップや大学からスピンアウトしたスタートアップとコラボレーションして、ビール製造工程で発生する副産物の活用方法を探す研究なども検討していました。
ファーメンステーションと出会うまでに、様々な探索や検証をされる中で、難しいことはありましたか?それとも、すぐに進んでいきましたか?
杉本様
私たちが考えているような、副産物を全く別の物質に変換する技術は簡単ではないですが、有力なものから順番に進めています。私たちは、発酵・醸造技術の知見は本業を通じて蓄積していますが、全く異なるプロセスや技術を持った方々との繋がりを意識して動いています。
異業種、異技術との連携ですね。そのような中でファーメンステーションと出会われたと思いますが、その時の経緯や印象はいかがでしたか?
杉本様
スタートアップが集まりピッチを行うデモデーに参加した時に、酒井さんが登壇されていて、そのお話に衝撃を受けたのが最初でした。
まず、岩手県でオーガニックのお米を休耕田から作っているというだけでもすごいのですが、そこからアルコールを作り、さらにはそのアルコールを全然違う化粧品など、我々お酒のメーカーが目を向けないような事業をされていること。
あとは、取り扱う単価が私たちと全然違うことに衝撃を受けました。同じアルコールでも、使い方ひとつでこんなにも違うものに変わるというインパクトが大きかったですね。ファーメンステーションさんがお持ちの技術面だけでなく、目の付け所や考え方が面白いと思いました。
全く別の価値のものに転換する取り組みを探していたと先ほどおっしゃっていましたが、探されていたものに合致する内容だったのでしょうか?
杉本様
そうですね。私たちは、未利用資源を価値の高い別の化合物へ変換しようと考えていましたが、ファーメンステーションさんは、エタノールという化合物としては既にあるものながら、化粧品等のアウトプットとして全くこれまでと違う付加価値を乗せるという発想でした。私たちがやっていた物質への変換の価値のつけ方ではなく、物質は変えずに全く違う付加価値を乗せるという考え方が、新しいイノベーションの姿という感じがしました。
ファーメンステーション側からはアサヒ様がどのように見えていましたか?
酒井
アサヒ様は、事業の過程で副産物として出てくる未利用資源、発酵・蒸留等の技術面や知見、またグローバルに展開されている基盤などお持ちなので、是非一緒にやりたいと思い、ピッチの場でストレートにお伝えしました。未利用資源だけでなく、飲料や食品など展開するビジネスもたくさんお持ちなので、色々な形でご一緒できるはずだと思っていました。
オープンなスタンスで共創したからこそ
実現したノウハウ・技術でのタッグ
お二方にお聞きしたいのですが、両社が取り扱っている商品や技術の細かい点はそれぞれ違うと思いますが、発酵・蒸留という括りでは同じプロセスをも保有している企業同士でもあると思います。そのような企業同士の協業において、ノウハウ面などお互いに警戒して何も進まないことも一般的な共創では聞く話だと思うのですが、進めるにあたって苦労された点はありましたか?
杉本様
社内では、発酵・蒸留は本業ですし、りんごの搾り残さからできたエタノールにするだけであれば自分たちだけでできるのではないかという議論はありましたが、できたエタノールを何に使うか決め事業とすることまで考えると、社内調整の時間を要してしまう可能性がありました。技術はあっても出口を素早く決める難しさがあるのではという仮説です。
発酵・蒸留の技術だけにフォーカスすると重なっているかもしれませんが、バリューチェーン全体で見るとお互いに違う強みがあって、それらを掛け合わせることで新たな価値が生まれるということですね。ファーメンステーションからは何かありましたか?
酒井
ご一緒に取り組むことで相乗効果と価値創出が出ると信じていました。また、アサヒ様の本業である飲料用のアルコールと、化粧品に使っても遜色ないエタノール(注:厳密には工業用アルコールと言いアルコール濃度や精製過程にも違いがある)を作ろうとするとそのための装置やノウハウが必要なのですが、それを持っている企業は多くないので、アサヒ様でも簡単ではない部分はあり補完関係はあるのではないかと思っていました。ですが、今思うともっと警戒した方が良いかもしれないですね(笑)
オープンなスタンスがあったからこそ、ここまで進めたのかもしれないですね。
杉本様
その通りだと思います。今回の取り組みでも、お互いの信頼関係のもと、共同で実験をさせていただいたり、協業における技術開発のポイントや課題の洗い出し行ったのですが、このオープンさがスピードに繋がったと思っています。実際にお互いに見合わないと分からないことはたくさんありますので、実際にそのようなプロセスを持てたことは良かったです。
今回は共創において、スタートアップ側だけでなく、大企業側であるアサヒ様からノウハウや技術協力をいただいたからこそ、その後のコラボレーションが進んでいったのでしょうね。
酒井
それはあると思います。話だけ聞かせてくださいというような姿勢は最初から全くなく、杉本様の今までの経験や技術のお話をしていただきながらも、ファーメンステーションがやっていることをリスペクトしてくださっていたので、私も抵抗なく情報を開示して一緒に技術的会話をさせていただきたいと思いました。
社会価値創出への理解・共感と
「まずはやってみる」姿勢が
取り組みを前進させた
お互いの姿勢もありスムーズに始まったと理解しましたが、進めていく中で、アサヒ様は社内でも周りを巻き込んでいく必要があったと思いますが、技術面も含めて、何か超えなければいけないハードルはありましたか?
杉本様
他の案件でもそうですが、協業する際には協業するアサヒのメリットを問われます。今回の案件は、りんご残さを、有価で引き取っていただき付加価値のあるものに変えていただくという点で、少なからずメリットはありますが、それだけでいいのかという議論が最初にありました。
当時、社内で説明する時は、循環型社会への貢献などアサヒの社会価値創出の活動に繋がることを訴え、できたエタノールの使い道は走りながら考えることとし、まずはスタートしました。このようにまず始めないと先に進めないですし、スタートし始めると、実際に抽出したエタノール等のサンプルを使って社内を巻き込んでいけたので良かったと思っています。
会社で説明される時に、「社会価値」や「循環」というキーワードは社内で納得していただけましたか?
杉本様
はい、納得してもらえました。
このようなテーマに関して深く理解されていらっしゃる会社なのですね。また、今回のようにまず進めてみるというやり方は、アサヒ様の中では当たり前のことなのでしょうか?
杉本様
アサヒグループにはまずやってみるという気質は以前からある気がします。一度走り始めたら会社としても早く進んでいくので、やるかやらないか、が大事ですね。
ファーメンステーションとして、進み始めてから難しかった点はありましたか?
酒井
技術面は順調で、収率も上がり良いエタノールが取れていましたが、様々な検討要素があり、できたものをどのような商品にするかを決めるのに時間がかかってしまいましたね。そして、検討している最中にコロナがきて、世の中のニーズを考えたときに、ウェットティッシュはどうかという話になりました。
アサヒ様のどのような部署と、どのような形でお話を進めていたのですか?
杉本様
アサヒクオリティアンドイノベーションズが窓口となり、私たちがグループ各社に話を持っていったのですが、事業に繋げるとなると、各社慎重になる部分もあり、検討には時間がかかりました。ファーメンステーションさんと消毒スプレーはどうかと相談をしていた時、様々な理由から止まりかけてしまったのですが、アイデアのピボットに素早く動いてくださり、ファーメンステーションさんからウェットティッシュの提案をいただいたときは、とても感心しました。
酒井さんはどうして素早くピボットできたのですか?
酒井
ファーメンステーションではどのような付加価値のある商品ができるのか商品アイデアや試作は常に動いていまして、その中でウェットティッシュの話があり、アサヒ様との共創でできたエタノールをなんとしても世に出さないと、と思っていたので、粘りましたね(笑)
「競合」ではなく「共創」の視点で
コラボレーションを拡大
今回の共創の一つの特徴は、最終的に「お米とりんごの除菌ウェットティッシュ」を開発・発売する際に、JR東日本様も入れた3社協業の形であったこともあるかと思いますが、どのようなお考えからそのような形になったのでしょうか。
杉本様
単純にお互いのやっていることを考えますと、両社ともりんごのお酒である「シードル」を事業としており、一見競合であるように見える部分もあるのですが、一方で、同じ青森県という地域を基盤に事業を営むコミュニティの一員同士でもありますし、JR東日本様には弊社にない全く別視点の事業上の強みもあり、単純にエタノールにするだけではなく、商品化し世に広めるという点で補完関係があるのではないかと考えました。
また、今回のようなこれまでにない新しい価値創出や循環を形成していくような事業は、単純な事業上の重複を超えて、地域や全体の広い視点で競合ではなく共創していく必要があるとも思います。
アップサイクル、地域、循環、未利用資源など、まだ当たり前の概念ではないものを一社で囲い込んでいても市場は作れない、という意識が各社のベースにあったからこそ形になったのかもしれないですね。そのような様々な取り組みを通じて実際に成果が出た時、貴社の中での反応や次に繋がる話はありましたか?
杉本様
JR東日本様含め3社で広報できたことは大きく、インパクトがありました。アサヒグループ内のイントラネットでも掲載され、国内外で共有できました。また、コロナの状況下ということもあり、完成した除菌ウェットティッシュを弘前市に寄付することができ、地域貢献の活動にも繋がって良かったです。
最初に話を持って行った時と、実際に成果物を持って行った時で、社内の反応に変化はありましたか?
杉本様
最初はりんごのエタノールを何に使うのかと言われていましたが、商品化するのが想像以上に早く非常にインパクトがありました。自分たちだけでなく、スタートアップと一緒にやるとこんなにも早く世に出す商品ができるのかという学びにつながりました。
当初あった困難な点と、進んだことの良い意味でのギャップが大きかったのかもしれませんね。ファーメンステーション側では、社会に発信したことによるインパクトは何かありましたか?
酒井
一つ目は、今まではアロマディフューザーなどは作っていましたが、今回は誰もが日用品として使うウェットティッシュになったことで、りんごの搾り残さからこのようなものになると知っていただき、またりんごの産地に思いを持っていただくきっかけとなりました。二つ目は、アサヒ様とご一緒したというインパクトが大きかったですね。私たちと取引がある一般のお客様からも、このような取り組みができる技術力を持った会社と認知してもらえました。
アサヒ様は他にも色々なコラボレーション先があると思いますが、そのような会社とファーメンステーションとの大きな違いがあるとしたらどのような点ですか?
杉本様
私たちは研究開発の会社ということもあって、これまで一緒に取り組んできた大学やスタートアップは研究や技術に特化しているケースが多く、協業を進める中で、一緒に市場をつくっていくという考え方がベースにありました。ですが、ファーメンステーションさんはマーケットにアクセスして様々な知見や実際のビジネスの現場を既にお持ちでしたので、できた原料素材を素早く商品に変えてお客様に販売できるという点は、今までお付き合いしていた会社とは違うと思いました。
ファーメンステーションの視点から、アサヒ様のユニークな点は何かありましたか?
酒井
まずアサヒ様の特徴に関して言うと、今までは原料や出口をお持ちの会社との協業は多くありましたが、技術面において近い会社との協業は初めてでしたので、ご一緒してとても学びが多くありました。
今回ご一緒して、私たちの技術も改善することができましたし、より深い技術の協業や他にも保有されている原料をさらに活用することで、これからもさらに色々なことができると思っています。あとは、ご担当の杉本様の存在がとても大きかったですね。杉本様の今までのご経験や、イノベーションや技術的会話に対するオープンなスタンスという観点でも、とても理想的なパートナーでした。
今後のことでいうと、アサヒ様はグローバル展開もされているので、これからは国内だけでなく、海外でも一緒にやっていきたいと思っています。
ファーメンステーションと
地域の拠点が
サーキュラーエコノミーの
ハブになっていく未来に向けて
今後の理想の展開をそれぞれお聞かせいただけますか?
杉本様
今回はニッカウヰスキーの弘前工場の搾り残さを奥州ラボに持ち込ませていただきましたが、アサヒグループで出た未利用資源を、地場に根付いているアサヒのグループ工場で変換することができたら嬉しいですね。
また弘前工場をスタートとして、他の地域でも各工場が各地域の拠点となってアップサイクルやサーキュラーエコノミーのハブになっていくと、また別の地域貢献の形ができると思っています。各工場という小さな単位で地域に貢献している姿を、国内外問わず思い描くことができたら面白いですね。
チャレンジングですが面白く実現してほしい未来の姿ですし、カーボンフットプリントなど環境に配慮した取り組みにも繋がっていきそうですね。ファーメンステーションの視点ではいかがでしょうか?
酒井
今仰っていただいた話は、まさに実現できたらいいですね。あとは、海外でも展開していきたいです。海外には、ビールやワインの市場が多くありますし、日本と同等かそれ以上にその地域でやるべきだと思っている方、ご評価いただける方もいると思っています。また、りんごのアルコールはとても良い香りがするので、アサヒ様には是非、りんごと、りんごの搾り残さからできるアルコールだけを用いた、オールりんごの飲料を作っていただきたいですね。
 
また、循環の視点で言いますと、りんごの搾り残さからエタノールを精製する発酵過程で出る発酵粕は家畜の飼料にしてごみゼロを実現しており、その飼料を食べて育った牛肉が先日出荷されました。最終的にどこのお店に届けられたのかなども全て追跡できるので、りんごの搾り残さからつながる循環を実現したことも今回の成果です。りんごの搾り残さ自体は美味しくないのですが、発酵させることで、果実の芳醇な香りが残ります。牛の飼料と混ぜると香りも良く、袋を開けただけで牛が反応してくれるほど大人気です。こういった循環や価値連鎖のストーリーも世の中に伝えていけるといいなと思っています。
杉本様
今後も様々な原料のアップサイクルをしていきたいのですが、搾り残さを折角活用しても、その粕は焼却して処分するのは何か違うと思っていましたが、それすらも有効活用しているというのはとても良い視点ですね。
面白いですね。お酒の製造過程で出てきた副産物をもう一度アルコールにしたり、アップサイクルしたもの同士で組み合わせたりなど、アサヒ様には色々な原料の原石が眠っていそうですね。高いチャレンジだと思いますが、将来像を作るにあたって、ファーメンステーションができることや期待などありましたら、お話しいただけますか?
杉本様
期待はたくさんしております。ファーメンステーションさんがいなかったら、JR東日本様とコラボレーションはできませんでしたし、ファーメンステーションさんがサーキュラーエコノミーのハブとなって、企業同士を繋ぐことは大きな意味があると思います。色々な人を巻き込んで事業に繋げていく役割は、ファーメンステーションさんたちだからこそできるのだろうと思っています。
あと今は、未利用資源である搾り残さからエタノールという別の価値物に変換することは、概念上は良いと分かりますが、これからは突き詰めていくと本当に環境に良いのかと問われる社会になっていくと思います。
日頃からファーメンステーションさんと話していますが、次のステップではりんごエタノールが純粋に環境にやさしいことを目で見て分かるようにして、一般のお客様にも認知できるようにしていきたいです。それができると、もっと社会全体を巻き込むことができるので、実現できたらパワフルですよね。
今後は消費者の視線もより厳しくなっていくと思いますが、しっかりと説明責任を果たせる事業になると良いですよね。
酒井
ファーメンステーションがいなければ、アサヒ様とJR東日本様が一緒にならなかったとは意外でした。スタートアップにいると、大企業同士は簡単に出会えて協業できるものと思っていましたが、話を伺ってそうではないと気がつきましたし、私たちファーメンステーションが役に立てることが色々ありそうだと思いました。
あとは、使える未利用資源を増やすこともそうですが、既にやっていることが地域や環境にどのような効果をもたらしたかなどを数値化して見えるようにして、様々な人にご評価いただけるようにしていきたいですね。