BUSINESS | BUSINESS CO-CREATION

CASE STUDY

JR東日本スタートアップ株式会社 様

りんごの搾り残さを活用。
グループ内アセットをフルに活用した
循環型事業の構築。

JR東日本スタートアップ株式会社様が、ファーメンステーションとの「未利用資源 再生・循環パートナーシップ」のもと、JR東日本グループで製造販売するりんごのお酒「シードル」の製造過程で出るりんごの搾り残さを工業用アルコールであるエタノールへとアップサイクルし、「MUSUBI 青森りんごで作ったエタノール配合ルームスプレー/ディフューザー」「お米とりんごの除菌ウェットティッシュ」を開発・発売するに至った経緯や事業化に当たっての取り組みをお聞きしました。

カテゴリー
業種陸運業
未利用資源りんご
商品ルームスプレー、ディフューザー、ウェットティッシュ
対談ご参加者
JR東日本スタートアップ株式会社
取締役 竹内 淳様
株式会社ファーメンステーション
代表取締役 酒井 里奈
※聞き手 ファーメンステーション担当

INTERVIEW

アクセラレーションプログラムでの
「発酵蒸留ワンダーランド」という
提案から始まった検討
早速ですが、竹内様がJR東日本内でご担当されている事業と、その中で今回の取り組みに至った背景などあればお教えください。
竹内様
私が所属するJR東日本スタートアップという会社は、ベンチャー企業と接点を通じて、JR東日本グループのオープンイノベーションを推進することを目的に、3年前にJR東日本の100%子会社として設立しました。いわゆるコーポレートベンチャーキャピタルとして、JR東日本グループとベンチャー企業の先進的な技術やサービスをマッチングして、お互いにチャレンジし、新しい価値の創造に取り組んでいます。私たちの活動のメインは、アクセラレーションプラグラム「JR東日本スタートアッププログラム」です。毎年一回募集し年度単位で回しているのですが、その2018年度のプログラムにご応募頂いたことが今回の取り組みのきっかけでした。このプログラムは2017年からスタートしていましたが、2018年度は会社設立以降最初の年度でしたので、私たちの中でも思い入れが強かった年です。
未利用資源のアップサイクルという文脈では協業できそうな企業は他にもたくさんある中で、ファーメンステーションがこのプログラムに応募しようと思ったきっかけは何だったのですか?
酒井
まずは、JR東日本様は存在がとても身近でした。弊社は岩手県に製造拠点があるため私は東北新幹線によく乗っていましたし、鉄道事業以外にも様々な事業をやっていて、地方創生にも積極的に取り組んでいらっしゃる。だからこそ、私たちの循環を軸にした事業やプロダクト、そして地域の魅力を活かしお金が落ちる仕組みを考えた時に、シナジーが生まれるのではないかと思ったのがきっかけでした。
最初にファーメンステーションのプレゼンテーションを聞いた時の印象はいかがでしたか?
竹内様
最初のご提案は、JR東日本で発酵の技術を使ったラボ(製造拠点)を作りませんかという、いわゆる設備投資のご提案でした。それを使って何をやるんだろうというのが第一印象でしたが、岩手県奥州市で取り組まれている内容などを伺って、いま捨てられているものから新しい価値が作られることは素晴らしいと思いました。当時、青森のグループ会社がりんごのお酒シードルを作る際に搾りかすを捨てているという話を聞いていたので、りんごの搾りかすでもできるかと、逆にお伺いをしたのが最初でしたね。ですが、当時はそのような実績や実証された技術はなかったようで、「検証は必要ですが、頑張ります。」というお答えを頂き、その場の質疑は終りました。
その時にりんごの搾りかすが思い浮かんだのは、御社の中での課題リストのようなものがあったのですか?竹内様がそのピッチを聞いていなかったら、今の取り組みに至っていなかった可能性がありますよね?
竹内様
初めての取り組みということもあって、グループ全体の課題リストはありませんでしたが、青森のりんごの搾りかすの存在を知っていました。当初ご提案頂いた設備投資の話ではなかったですが、グループの中で何かできないかと考え、お米での実績から、野菜や果物でも可能性があるのでは、と青森のりんごの話を思いつきました。
酒井
最初のピッチの時は、皆さん興味を持って聞いてくださっているのが分かりました。発酵技術を用いた地域循環事業として、まずは年度内に米と農作物を使ったプロダクト、翌年には発酵・蒸溜所を作り、米から生まれる発酵・蒸留ワンダーランドを作りましょうと話しました。新幹線を利用して、地域に人がたくさん来ていますからね。りんごの話が出た時は、確実にできるかは分かりませんでしたがとても良い原料ですし、もしできたら未利用資源で面白いですし、岩手と別のフィールドでできるなど、想像が膨らみました。
竹内様
地域に人が来るのはそこに期待があるからで、酒井さんは、ラボだけでなく周りの農家さんも含めた地域との関係性がしっかりとできていて、チーム一丸となっているのがとても印象的でした。
現場に足を運びグループ内の協力を得ることで
商品アイデアを着想
ピッチのあとは、竹内様は社内でどのように動き、何から始まっていったのでしょうか?
竹内様
私たちはまず、りんごの搾りかすからエタノールが取れるかの実証実験を行うため、青森でシードルを作っているグループ会社から、毎年廃棄処理している搾りかすを譲ってもらう必要がありました。説明をしてもまだ実績がないので、何をするのだろうと思われているだろうなという感覚でしたね。もともと捨てている搾りかすなので、何も損はしませんよと話し、少量有償で提供してもらうことからのスタートでした。
ニワトリが先か卵が先かみたいな、新規事業を進める上で直面しがちなお話ですよね。
竹内様
誰しも未経験のものは怖いですし、全くそこに無神経な人はいないと思うので、当たり前の反応ですよね。最初から相手に負担をして下さいと言うと、新しいことへの怖さから拒絶感が生まれてしまいますが、このような技術を持っている会社があって、うまくいくとこんな可能性がある、ということをきちんと説明することが大事ですね。
酒井
実証実験は、初めのフェーズはエタノールを作ることを中心に進め、その次のフェーズではエタノールを何の商品にして、発酵の過程で生じる発酵粕をどう活用するか(注:ファーメンステーションではごみゼロ実現のため発酵・蒸留過程で出る発酵粕も全て活用しています)、それら商品等を活かしたツアーの実施についても相談していましたね。並行して、技術課題については、何ヶ月もかけて様々な条件での発酵をテストしていました。
竹内様
商品は「りんごで作った○○」というラインナップはイメージがつきますし、販売はもともとグループ会社の雑貨を扱う店がありましたので、なんとなくイメージはありました。ですが、まずはエタノールを抽出するという技術的な壁がありましたので、色々と工夫して頂いていましたが、実現できるか分からない中でも、作ったものをお客様に提供できたら、と思ってグループ内の関係箇所に話をしに行っていましたね。
ファーメンステーションの視点から、技術的な面も含めて実際に進めてみて難しかったこと、大変なことはありましたか?
酒井
技術面では、発酵に苦労しましたね。そもそも、りんごの搾りかすを見たことがなかったですし、発酵してアルコールにするには搾りかすは糖分も少ない。簡単にはいかなさそう、という最初の印象でした。発酵の条件を色々と変えるなど、技術的に工夫を凝らしてチャレンジしました。

商品化に関しても、とても悩みましたね。私たちが今まで作ってきた商品とは価格帯なども異なる初めての挑戦でしたので、販路候補でルミネ系列のココルミネストア様にアドバイスをいただき、商品としてアロマとディフューザーに決定してからも、香りの選定や、パッケージについてもご協力頂きました。商品のパッケージに「1/47」と書いているのですが、今後47都道府県シリーズでやっていきますという想いを商品に込めていました。

それ以外では、JR東日本という大きな組織の中で、自分が普段話せない人との接点を作っていただけるありがたさや、私がやりたいことを一緒に調整していただき、色々な苦労があることを知りました。
竹内様
何か苦難があっても、酒井さんは今まで突破されてきたんだろうな、今回もきっとうまくいくだろうという感覚がありました。私たちも酒井さんのやりたいことに納得感があったので、自然とご一緒していましたよ。
今回の竹内様のように、社内での調整をしたいけど困っている大企業の方は多いと思います。竹内様は、何かバックグラウンドや、日頃意識して動かれていることはありますか?
竹内様
私自身は、JR東日本グループの外に二度出向をして、JR東日本が社外から見て魅力的なアセットを持つ会社だと思われていることを常々感じていました。リアルなアセットを持ち、多くのお客様にご利用頂き、顧客接点もたくさんあって羨ましい、などと言われれば言われるほど、全てのポテンシャルを発揮しきれているのかという思いはありました。このような経験から、社外の方からお話を頂いた時に受け入れやすい、ということはあるかもしれません。あとは、鉄道事業以外のビジネスの企画担当もしていたので、広く薄く知っている部分はありました。グループ内のキーマンも知っていたので、話を聞いてくれそうな人をマッチングするよう心がけました。
1年の短期間で
実証・商品化・周辺サービスへの展開を
スピーディーに実施
プログラムの期間中には、どこまで進んだのですか?
竹内様
かなりご無理をお願いしたかもしれないですが、年度内にエタノールの精製、製品化、家畜飼育農家さんとのネットワーク作りと全て上手くいったので、グループの小売店で商品を販売するまで至ることができました。エタノール生成後の発酵粕に関しても、グループのホテルメトロポリタン盛岡で総料理長がメニュー監修する東北レストラン鉄道「TOHOKU EMOTION」の企画で、発酵粕を餌として食べた牛の肉が列車内で出る食事のメニューとして使われ、また同ホテルが重要なお客様をお呼びして年一回開催するイベントでもメインの食材に採用してくれたほか、ファーメンステーションの取り組みを視察する旅行ツアーのお食事としても提供されました。グループとしても地域との関わりができましたし、ここまでできたのはファーメンステーションさんとご一緒したからだと思っています。
酒井
少人数で、しかも短期間にこのようなことをスタートアップとやっていらっしゃるんですよね。すごいです。
竹内様
スタートアップ企業の皆さんと色々な案件をやらせていただいていて、基本的には全て年度内に何かしら実証などをやります。その分、追い込まれますが、スピード感という面では良い方に働いていると思いますね。
このプログラムが終わるタイミングで、社内の反応に変化はありましたか?
竹内様
最初は新しいことでもありますし話半分という部分もありましたが、エタノールが実際に作ることができるとわかってから徐々に変わりました。搾りかすを使う量はまだ少ないですが、これからさらに量が増えたら最終的にはごみゼロになる、という可能性を実感していただけました。あとは、実際に製品になって販売されたことが大きかったですね。青森県内はじめグループ外のお店にも扱っていただき、実際に買っていただけるお客様がいらっしゃることが何よりの証明で、評価は変わりました。
「商品」という実績ができたことで広がる
企画アイデアと協業の輪
そのあとはどのように進んでいったのですか?
竹内様
そのあとは、エタノールの他の用途を考えていた時にコロナになり、消毒用スプレーの企画でコスト面など試行錯誤していたところ、ウェットティッシュとしての商品化のお話を頂き、もう一度社内に持ちかけました。
酒井
私の中で、りんごの搾りかすの廃棄量ゼロの実現は、大きな宿題だと思っていたので、プログラムが終わった後もずっとコミュニケーションは取らせていただきました。ウェットティッシュは、アサヒグループホールディングス様(注:同じくりんごのお酒シードルを製造販売し、りんごの搾り残さの活用を考えられていた)からお声掛け頂いた時に別の会社でシードルとしての商品も別ですし、ご一緒することについてなかなか言い出せなかったのですが、思い切って相談したら、「いいじゃないですか」と言っていただき、この新しいコラボレーションにすごいと思ったことを覚えています。(注:商品化された「お米とりんごのウェットティッシュ」は3社の協業商品となりました)

一連の実証実験を終えて感じたのは、JR東日本様は色々なプラットフォームを持っていて、そこに関われたことはファーメンステーションとして伸びるきっかけになったということです。今までは私たちができることを伝えるばかりでしたが、今回は両社の持つ強みを一緒に考えながら進め、最終的にはJR東日本様として様々なメディアや場所で発信して下さいました。その時も、表現の切り口の違いがとても面白く、新たな価値の出し方にも気付かせて頂きました。
竹内様
ベースにあるのは、どうして一緒に取り組んでいるのか、ということです。そのメッセージがあった上で伝えていく方が、この先の展開があった時も繋がっていきますし、伝わりやすくなりますよね。
ビジネスとして成り立つ
サステナビリティは広がる
今の話に関連して、今後どのように広げていきたいかを、それぞれからお聞かせ頂けますか?
竹内様
まずは、グループとしてりんごの搾りかすの廃棄量をゼロにしたい、ということはずっと思っています。正直、最初は本当に出来るのかなと思っていましたが、今ではお付き合いを通じてその可能性をより実感できていることが嬉しいです。私たちの小さな工房のごみをゼロにするだけでは社会的なインパクトは小さいので、もっと大きなところに繋げていけないかと思いましたし、その点ではアサヒホールディングス様との協業で、私たちだけではできないところへの可能性が広がったと思います。「青森のりんご」というキーワードで、様々な人を集めて形にしていきたいですね。

もう一つは、今回はたまたま青森のりんごでしたが、全く違う地域で、全く違うもののお話があれば、是非ご一緒したいです。私たちが地方創生としてやっていることは、まだ表面的であることを実感させられたので、地域や社会に対する使命として、さらに本質的な部分に取り組んでいきたいです。JR東日本だけではできないので、またご一緒させて頂き、2/47、3/47・・・と事業化を続けていきたいですね。
酒井
まず、JR東日本様にきっかけをいただいて始めたりんごの搾りかすは、原料が本当に素晴らしく、化粧品や香水の原料としての可能性もあります。ファーメンステーションとして、技術を伸ばしながら、良い原料を世の中に広げていくスタート地点にしたいです。

そして、私たちも廃棄量ゼロは実現したいですね。色々な大企業の方と話していると、「何をしたら良いかは分かっているけど、実際にはできない」という声をよく聞きます。未利用資源を活用して循環していく、JR東日本様とのこの事例をもっと多くの人に知って頂き、色々な人とこのような取り組みができたら嬉しいですね。

あとは、せっかくご一緒させて頂いたので、JR東日本様のビジネスの様々な部分に弊社の商品が入ることを目指していきたいです。エタノールは、消毒、おしぼり、そして発酵粕にも価値があるので、会社で使ったり、配布したり、商品として販売したりと様々なところに市場があると思っています。他の地域でもそうですし、これからも色々なことをご一緒したいですね。
最後に、ファーメンステーションとお付き合い頂いて、客観的な評価や期待などあれば、教えてください。
竹内様
SDGsやエコの取り組みをする時、負担が誰かに偏ってしまうことは多少なりともあると思うのですが、ファーメンステーションはきちんとビジネスとして成り立つことを示して下さっていますよね。それによって、「やらなければいけないのは分かっているけど、実際にはできない」という空気感が変わっていくと、社会全体に対してとても良い影響になると思います。何よりも、地域と一緒にチームとして取り組んでいて、地域の方々もニコニコされているのが、全てだと思います。これからも、このように社会全体に良い影響を与える存在であり続けていただきたいです。まだ道半ばの構想がたくさんありますので、是非一緒に実現していきましょう。
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